小売業の投資が変わってきた?

#11 小売業の投資が変わってきた?

 

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ひょんなことからパソコン小売業のN社長とお話をしてきました。

 

N社長は定期的にヨーロッパ旅行に出かけます。

理由は成熟国家の消費動向の視察です。

人口が減少する成熟国家で消費はどう動くのか

オーストリアやオランダは小国でありますが、かつては世界を制覇した経歴のある成熟国家です。

そのオーストリアやオランダの現在の消費はどうかというと

やはり物価は下落を続けています。

背景には消費者の倹約志向があります。日本と同じデフレ経済が続いています。

人口が約800万人~1,700万人程度の規模の国家においても小売業は価格競争から抜け切れていない状況にあります。

一方で高福祉国家として有名なスウェーデン、デンマークの物価は高く

税金も高いことは皆さんもご存知のことでしょう。

日本でも2014年4月から消費税が5%→8%へ上がります。

スウェーデンや、デンマークでは贅沢品については高い税率が適用され、ただでさえ高い物価をさらに押し上げています。

そんな状況下で最近日本の「すし料理」が人気となっているそうです。

日本人的感覚からすると、「すし料理」は日本では高級料理の代名詞的存在で、ぜいたく品の典型と考えられます。

ところが実は、北欧諸国では土地がら、暖かい食材がぜいたく品と定められており、マクドナルドのハンバーガーやケンタッキーフライドチキンはぜいたく品となります。

一方で、冷たい食材で作られる「すし」はチーズやヨーグルトなどと同等の日用品に区別されることで、比較的低価格で食することができるため、人気となっているそうです。

今後消費税が徐々に上昇していく中で、税率が割高になるか、割安になるかが商品の売れ行きに影響を与えていくことは確実だといえそうです。

人口が減り、成熟国家に進む日本においてN社長の取り扱うパソコンも消費者の価格志向は強まり、商品特性からもぜいたく品として定められる方向性が強い中で、どうやって事業を継続していくかを聞いてみました。

カギはサービス!必要なのは教育投資!

2013年9月には家電量販店トップのヤマダ電機が中間決算ではありますが、上場後初の赤字となり世間を驚かせました。

価格COMなどに対抗するために安売りしたことと、中国進出の失敗から半期中間決算で上場後初の赤字決算となり、現在も苦戦が伝えられています。その他の大手電量販店も同様に苦戦をしています。

一方でN社長は、リーマンショック以降大幅な投資を行ってきました。

その投資の方法はパソコン販売店としては異例な方法でした。

自前の店舗の出店は極力抑え、他社の店舗へ間借りする形で修理・保守サービス拠点を設け、他社が販売したパソコンの修理や、各種設定のサポートを業務の中心として活動してきたのです。

結果的にパソコン修理やサポートの人員は増えましたが、箱もの(店舗)は微増となりました。

小売業が売上高増加を目指す定石は出店の増加すなわち店舗面積を広げることです。

一方で店舗面積の増加ほど人員の増加は行えないのが現実で

実際の売り場ではサービスの質が落ちる現象が各大規模店舗で現実に起こっています。

この店舗面積の増加と売り場当たりの人員の手薄化のしわ寄せは、

特に商品販売に直結しないアフターサービスの部分に現れてきました。

他社の売り場面積の増加策がN社長のアフターサービスの需要を押し上げたのです。

結果として、N社長の会社は他社と同様にパソコン販売の粗利は価格競争から減少しましたが、

それを補う修理やサービス事業の粗利が上回り、他社が赤字転落する中、

2014年には過去最高益を達成する勢いを見せています。

ではなぜ、他社は同様な人材投資ができなかったのでしょうか?

それは投資の考え方の違いだとN社長は指摘します。

これまでの小売業の投資と回収の考え方は「売り場面積の増加により売上増加を目指すもの」でした。

それは投資した時点が最大の資金支出となり、どれだけの売上を達成すれば資金を回収できるのかが明確であり投資家からすると箱もの(店舗)が目に見えることも安心材料になり非常にわかりやすい方法でした。

つまり投資した時点がファイナルで、あとは結果を待つだけだったのです。

一方で、人材に投資するという行為は人材を雇い入れた時点での資金支出は限定的ですが、

継続的な資金支出が続くこととなります。

つまり投資した時点がスタートなのです。

よって支出金額の最大時期は投資時期より最も遠い地点となります。

一方で人件費に見合った成果ははっきりと目に見えるものではありません。

人員増加が売上や利益の増加に直結しているかは新規店舗の売上増加を見るより複雑かつ長期で検証しなければならないからです。

つまり投資家からすると、資金支出が一体最大でどれくらいになり、いつ投資を回収することができるのかが不確実な投資と映ることになります。

こうした投資の仕方をN社長はスイスの時計職人の例を出し、「戦略に投資する」手法だと語りました。

かつてスイスで最も生産性(費用対効果)の高い職業は金融業でした。

「漫画ゴルゴ13」に出てくる秘密口座など世界のお金持ちの資金を匿名で預け入れたりすることで、高い利益をあげていたのでしょう。

しかしその後の世界的なテロ資金撲滅の金融政策から、そうしたビジネスモデルが限界となった今日、最も高い生産性を上げている職業は時計職人となっているようです。

時計職人の仕事を想像したときに1日に作る時計の数を想像してみてください。

とても、工場で大量生産している工員の製造数には及ばないでしょう。

一方で時計製造の材料にはそう大きな違いは無いようです。(ダイヤを散りばめただけの高級時計は別格です)

製造数が少ないなかで生産性を高めるには販売単価を大きくする他に方法はありません。

そうです、スイスの時計職人の生産性の高さは販売額の大きさにあるのです。

一人の職人が生産する時計が年間10個であっても

その売上高が1億円であり材料費が工場の大量生産物と同程度であれば、

一人当たりの生産性が高いのが時計職人であることが理解できます。

ではどうしてスイスの時計職人の造った時計は高くても売れるのでしょうか?

これが「戦略に投資する」ということなのです。

スイスでは「これからは時計だ!」という戦略を決め

それから、試行錯誤しながら時計職人を訓練し教育し育ててきたのです。

合わせてスイスの時計ブランドを高めるマーケティングを継続してきたのです。

投資する時がスタートという考え方で資金を継続して使ってきたのです。

「商品販売からサービスの提供へ」との戦略から

サービスを提供する人材の教育へ投資してきたN社長の競争優位は

スイスの時計職人と同様に

他者が一朝一夕に真似できるレベルにはないところまでの高みに

すでに登っているのだと強く感じました。

 

 

 

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