フロー経営からストック経営へ

#14 フローからストックへ

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ひょんなことからソフトウェア開発業のS社長のお話を聞きました。

Sさんの会社は健康診断にかかわるソフトウェア開発を行っています。

皆さんも健康診断結果の還元を受けた経験があると思います。

この診断書作成システムを検診機関向けに製作したり、

大手企業の健康保険組合向けに健康診断関係ソフトの開発を行ってきました。

Sさんの会社はSEが50名程度の企業規模です。

競合するシステム開発企業はSEを数百名~千人規模でかかえる名だたる企業(NTT関連、富士通関連、日立関連)ですが、健康診断や人間ドックにかかわるシステム開発に特化し大手企業と常に互角に戦える企業として業界内での地位を獲得してきました。

 

ソフトウェアの開発は要件定義→システム設計→製作→テスト→運用と長期に渡ります。

前回の建設業の「工事完成基準か工事進行基準か?」で書いたように、

システム開発の工程間の資金繰りがポイントとなりますが、

Sさんの会社の場合は前金・中間金・最終金と

システムの進行に合わせてクライアントから代金を受け取る仕組みとしているので、

資金繰りの問題はクリアできています。

 

一方で、システム開発業は一度納品すると数年間は更新需要が無く、

常に新規顧客の開拓をすることが求められ、業界内の競争が激しいことが特徴として挙げられます。

 

Sさんの会社の課題も大口受注時には売上高が伸びますが、

受注が落ち込むと売上高が大きく減少するといった売上変動の波が大きくなっていることでした。

 

要因は会社規模が大きくなるのに従い、必要な人材が不足していることがあげられます。

新規受注には競合他社それも大手システム開発企業に打ち勝つノウハウと経験を持った人材が必要なこと。

大口受注時にはそのプロジェクトを管理遂行する高い調整能力を持ったプロジェクトマネージャー人材が必要なこと。

 

従来はその役割をSさんを含めた創業以来のメンバーで担ってきましたが、

Sさんも還暦を超え、各人の高齢化が拡大する業務に体力的に追い付かなくなってしまったのです。

 

業界最大手のNTTデータなどでも安定的にシステム開発受注をし利益を確保してくのは容易でなく、

2013年にはシステム開発の新規受注は行わず、既存システムの運用管理に経営資源を集中する方針を示しているそうです。

 

このような状況下Sさんの採った戦略は、一言でいうと

「フローの経営からストックの経営へのシフト」作戦でした。

 

具体的には受注によるシステム開発から

クラウドを活用した既存システムの利用権の販売へのシフトです。

 

1件1件受注し、個社別に開発したシステムを納品するのでは無く、

必要なソフトウエアを必要な時に利用してもらい課金する事業形態にシフトしたのです。

 

背景には自社のソフトの競争優位性には自信があったこと。

一方で新規開拓にかかる営業人材、大型システム受注時のプロジェクト管理人材に課題があったこと。

 

以上を踏まえ、ターゲットを従来の大手健診機関や、大手企業の健康保険組合から、

従来は価格的に折り合わなかった中小の検診機関や中堅企業向けに絞りました。

販売はクラウドによるソフトウェアの課金制度をインターネット上で行う事業へ転換しました。

 

具体的にしたことは?

 

以下にSさんが事業転換に際し行った事をまとめました。

 

①    都道府県知事あてに「経営革新」認定制度を申請し認可を取得。

新しい事業や新しい販売方法など中小企業が付加価値を高めるため行う事業を行政機関が認めることで、

当該事業に要する資金について信用保証協会融資枠が80百万円拡大します。

②    クラウド用の自社サーバーを構築。

Sさんの会社はシステム開発企業のため自社でサーバーは内製化します。

システム完成後には自社の固定資産となります。

③    固定費削減の実施。

クラウドシステム構築に伴う費用負担が先行し売上がついてくるまでの間、

収益構造の悪化が見込まれるため、その他固定費を見直し前倒しで削減を実施しました。

具体的には事務所家賃の引き下げ交渉と、金融機関借入の金利引き下げ交渉を行い実現させました。

④    メインバンクの変更。

会社の経営課題を理解し事業転換の必要資金を手当てしてくれた金融機関にメインバンクを変更しました。

⑤    定款の事業目的について

クラウドシステムによる課金制度でのソフトウェア販売業を事業目的に加えるかを東京法務局の相談部署へ確認しました。

結果は販売方法の変更だけなら追加する必要は無いとの見解を得ました。

 

 

中小企業の業績を支えるものはSさんの会社のように“属人的なノウハウ”にあるケースが多いのが現実です。

 

事業を永続させていくにはその“属人的なノウハウ”を文書化したりマニュアル化したりする活動が多くの企業でも求められます。

 

Sさんの会社の場合は製品がソフトウェアという形ですでに応用できる形となっていたので、必要なのは売り方を変えることに焦点を合わせることができました。

 

経営者のやらなければならないことで重要なことは、

今の売上を稼ぐことより、将来の売上を稼ぐ仕組みをつくること

Sさんから教えてもらう事ができました。

Sさんの経営革新が成功するようにこれからも応援していきます。

 

 

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