工事完成基準か工事進行基準か?
#13 黒字なのに赤字?工事完成基準と工事進行基準
ひょんなことから設備工事業のK社長に呼ばれて話をしました。
Kさんはビル設備の工事請負業を営んでいる方です。
社員には技術習得という意味だけではなく、
仕事を通して「工事屋」としての誇りを持って欲しいとのポリシーから
手作業にこだわる技術屋集団として業績を拡大しています。
今回大口の受注に成功したのに伴い運転資金の調達を銀行へ依頼した時の話を聞きました。
Kさんの会社は毎期決算で黒字経営を継続している堅実な企業です。
今回の融資申し込みに際し、決算から3か月経過時点での経営成績を示す試算表(B/S貸借対照表、P/L損益計算書)を銀行に提出しました。
その後銀行担当者から「社長!赤字じゃないですか」との電話を受けました。
Kさんとしては受注も好調で黒字との認識でしたが、提出した試算表のP/L数値は大幅な赤字を計上していたのです。
なぜ受注は好調なのにP/L損益計算書は赤字になってしまったのでしょうか?
理由は会計上の仕組みによるものでした。
Kさんの会社は工事完成基準を採用しています。
工事完成基準とは工事の完成(引き渡し)をした時点で売上を計上するやり方です。
会計の原則は実現主義なので、原則工事が完成した時点で売上計上するが一般的です。
ただし、工事完成基準には欠点があります。
それは工期が長期にわたる工事の場合には合わないという欠点です。
工事完成基準では売上高は工事完成時点に計上されますが、
外注先や資材の支払などは支払(実現)の都度、すぐに費用計上されてしまうからです。
つまり工事が完成するまでは費用ばかりが計上され、売上は完成するまで計上されないため、
表面上は損益が赤字となってしまうのです。
これでは会社の業績の実態を正しく表しているとは言えないでしょう。
この不合理を解決する方法として工事進行基準があります。
工事の進捗の度合に合わせて売上を計上することで売上(収益)と費用を実態に近づける方法です。
大事なのは部外者にも客観的に説明できる事
では具体的に会計基準を変更すれば良いのでしょうか?
答えは否です。
Kさんの会社の場合、普段の工事は期間1か月から3か月程度の短期工事が主流です。
今回の大口工事の受注が特殊なケースだと考えられます。
工事進行基準の適用をするのであれば、毎年1年を超える工事が発生する場合など、
それにより会社の期間損益が実態とかけ離れることが頻繁に発生する場合なら変更することも必要ですが、現状ではその必要はなさそうです。
また会計基準の変更は銀行が審査する際の経営悪化兆候の一つとみなされており、
特に今回のように利益計上が可能となる会計基準を安易に行うことは得策では無いのです。
同様な利益計上が可能となる会計基準の変更には以下のような変更があります。
(売上計上)・検収基準→出荷基準 ・回収基準→販売基準
(減価償却)・定率法→定額法
では実際どのように銀行へ説明すれば良いのでしょうか?
大事なのは部外者である銀行にも客観的に自社の状況を説明できる資料を用意することです。
今回のケースでは
①普段の工事とは違う特殊な工期の大口受注であることを、請負契約書など提示して説明してみましょう。
その他の一般的な契約書を提示することで今回の工事が特殊であるとの説明がつくはずです。
②工事の進行度合いを工程管理表などで提示しましょう。
請負契約にある受注金額に対し、現在の工事の進捗比率を見積もることで現時点での期間損益を売上(収益)と費用を両建てにして実態の損益状況を説明してみましょう。
③工事が完成した場合の最終損益を見積もることで本件工事の採算を算出してみましょう。
ここで注意が必要なのは最終損益が当初予算とかけ離れるケースが最近多発しているということです。
要因は2013年のアベノミクス効果や2014年4月からの消費税アップを見越した駆け込み需要から
建設業界においては人手不足から工期の延長を余儀なくされているケースが増加しています。
加えて資材の値上がり人件費の上昇など工事予算管理上のコストアップ要因が多くなっています。
Kさんの場合も同様で工事を進めていく中で当初予算を上回る工事案件がでてきています。
会計基準の変更は必須では無いと言いましたが、
今後は工事の進捗に合わせた損益管理を
自社で把握していくことが必要になることは確実です。
建設業に限らず工程管理が必要な業種、
例えばソフトウェア開発業なども同様な進捗管理の考え方が必要となります。
くれぐれも工期延長により人件費や外注費が増加した結果、
完成して初めて赤字工事になることが判明した!
などの事態にならないようにしていきましょう。