幸運だが偶然ではない
#3幸運だが偶然ではない
ひょんなことから、元映画プロデューサーのSさんにお話しを聞いたことを思い出しました。
Sさんは当時どんぶり勘定に近い映画製作の現場に投資回収の会計的理論を持ち込み、今ではあたり前になっている映画PPVをいち早く導入した人として知られています。
同じコンテンツでも、テレビドラマと映画では制作費の回収方法が大きく違います。
テレビドラマはテレビ局が制作費を支払うため、制作側としては納期に企画通りの作品を納めることさえできれば資金回収に懸念はありません。
一方で映画制作は主に興行収入から資金を回収するため、当たれば大きいがそうでないと資金が回収できないという博打(ばくち)に近い性格が会計面ではあるのです。
Sさんは公開前に投資資金を回収するため、映画公開前に映画のテレビ放映権、ビデオ化権、PPV権(pay per view見るコンテンツ毎に課金)ネットでの版権等を前売りかつ切り売りすることで、興行収入に左右されない方法での資金回収を行いました。
手堅い資金面とは裏腹にSさんは映画の内容については強いこだわりを持っていて、いわゆる観客に迎合するような作品ではなく、あくまでも作り手側の伝えたい事に焦点を当てた作品が多かったように思います。
幸運の女神は準備の整った人を好む
Sさんは早い段階から国内だけでなく海外を視野に映画作りを進めてきました。
アプローチの仕方も独特で、海外マーケットの「ニーズ」よりも、日本の映画が持つ「シーズ」を企画の中心にしていました。
再三「シーズが企画だ」と言っていました。
世の中のマーケティングの考え方が、作り手のシーズ中心のプロダクトアウトから顧客のニーズ中心のマーケットインへ変化している時代の1990年代当時としては異端的な発言にも正直感じました。
今から20年ほど前の1990年代のSさんの映画に共通していたのは、日本にしかないカルチャー、「ヲタク」や「田舎の風景」「今でいう都市伝説」などをテーマに世界へ挑戦していたことでしょう。
そんなSさんの響いたフレーズは、とある映画祭での金賞受賞時のコメントです。
インタビュアーから「今の気持ちは?」と聞かれた際に発したこの言葉です。
「幸運だが偶然ではない」
つまり、ラッキーはあるが、狙っていたということです。
そうか!
金賞を受賞できたのはラッキーもあるでしょう。でも、その土台として自分の信念「これが受ける」との強い思いがなければこの言葉を自信をもって言うことはできないでしょう。
誰もが幸運を手にしたいと願いますが、それまでの過程で悩んで時間をつぶしたり、人の意見で考え方が左右されたりします。
だから、やり遂げる情熱を継続し、あらゆる面での準備をしている人はほんの一握りの人でしょう。
日本の映画産業は欧米に比してチャレンジャー的存在でした。
経営学の観点からは市場地位別の基本戦略として2番手のとる戦略は差別化戦略です。
それもリーダーが簡単に模倣できない圧倒的な差別化つまり個性がキーとなるのです。
個性とはまさに「シーズ」のことです。
時代の潮流を安易に受け入れず、自分の信念を貫き、シーズ=個性で栄冠を勝ち取った姿勢を私も身に着けていきたいです。
幸運だが偶然ではない!
といつか必ず言える日が来るように日々を重ねたいですね。