サードパーティロジスティックスってどうなの?
#17 サードパーティーロジスティクスってどうなの?
ひょんなことから、15年ほど前にプロジェクトを一緒にしたYさんと再会しました。
当時Yさは新興運送業者の企画室室長兼IPO準備室長として働いていました。
玩具卸業M社はもともとプラモデル・ラジコン・鉄道模型の卸問屋として、全国の模型店向けの卸売業を営んでいました。
男性向けの玩具はプラモデル・ラジコン・鉄道模型からゲームへ大きく流れが変わり、M社も取扱い商品におけるゲームソフトの比率を年々高めていました。
当時ゲームソフト業界では仕入先が圧倒的な力を持っておりファミコン向けの人気ソフト任天堂の力が強い時代でした。
仕入には保証金として1か月分の仕入代金の差入が必要で買掛期間も1か月という資金繰面では卸側に非常に不利な条件で仕入れを行っていました。
全国展開していたM社は各地の模型店や玩具専門店、スーパー向けに都内の自社倉庫から自社配送員が直接配送を行っていました。
当時M社の売上は増加していましたが、利益率、利益額とも減少が続いていました。
理由は取扱い商品のうち粗利の高いプラモデル・ラジコンの売上は年々減少していく中で、利益率の低いゲームソフトの比率が高まっていたためです。
このため、売上は増加していましたが、単価の高いゲームソフトの売上が過半を占めるようになったころから、資金繰も忙しくなり、借入が増加しました。
合わせてゲームソフトの販売は波が大きく売上の変動が従来より大きく増減するようになりました。
利益率は低下し売上が減少すると固定費をまかないきれず、赤字となる状況に陥りました。
改善策として固定費削減に取り組む必要がありました。
具体的には固定費の大きい順に人件費、物件費、車両費の削減について計画しました。
卸にとって在庫保管の倉庫と配送人員は業務の根幹にかかわる分野です。
単なる縮小では品揃えの低下や効率面の低下が売上・損益状況に悪影響を与えることになります。
倉庫面積と配送体制を維持しながら費用を削減する必要性に迫られたのです。
そこで私は当時接点のあった新興運送業のYさんにM社再建の依頼をしました。
赤字事業でも引き受けてもらえるのか?
私が依頼してから3日後にYさんから驚きの提案がありました。
その提案内容とは
M社の配送業務をYさんの会社が一括受注する。
M社倉庫をYさんの会社が一括賃貸する。
M社の配送部員全員50名をYさんの会社へ移籍しYさん企業の社員として雇用する。
これによりM社は配送員の人件費・運送費の負担年間2億5千万円が削減されます。
一方で運送業務のYさんへの外注により2億5千万円の支払が新たに発生します。
しかしM社倉庫をYさんへ一括賃貸することで賃料収入が年間1億円入ることになります。
M社側からすると結果的に確実に年間1億円の損益改善が図れます。
一方でYさんの会社では、新たな物流倉庫と車両と配送員50名を取得することで、年間3億5千万円の支出が発生します。
M社の配送業務の一括受注により、2億5千万円の収入が入ります。
ただしYさん側では1億円の倉庫賃貸費用が支出超過となります。
つまりこれだけではYさんの会社は1億円の赤字となります。
なぜこの条件でYさんがこのスキームを引き受けることができたのか
サードパーティロジスティクス的解決手法
それはサードパーティロジスティックスという新しい考え方があったからです。
サードパーティロジスティクスとは
まず、提案書にはM社倉庫の状況が克明に写真として掲載されていました。
Yさんは「すみません。勝手に倉庫に入り写真をとってきました。おかげで倉庫の状態や配送までの流れがわかりましたよ」とのこと。
ある意味不法侵入にもあたる行いではありますが、この行動の速さには脱帽です。
ポイントは3つありました。
1つは「物流センター機能」
2つめは「混載機能」
3つめは「セールスドライバー化」
の3つです。
1つめの物流センター機能について
賃貸した倉庫にはスペースの余裕がありました。
これはプラモデル・ラジコン・鉄道模型に比べ、ゲームソフトはスペースも小さく、在庫期間も短いことから在庫数量・在庫期間から在庫スペースに空きスペースが存分にあったのです。
Yさんの会社ではこのスペースに他社から受託した配送用の在庫を保管するのに使用し倉庫を有効活用することができたのです。
2つめの混載機能について
M社では配送部員は単なる配送のみを行っていました。
仕事は各店舗に商品を納品するだけです。
つまり往路は商品を積み込みますが、復路はトラックが空の状態にあるわけです。
これをYさんの会社では他の配送受託先企業の荷物との混載を行うことで、往路復路の荷物を手配し1往復路あたりの配送売上を増加させることができたのです。
3つめのセールスドライバー化について
配送部員へのセールス手法を教育し、
固定給与からセールス度合に応じた成果主義的な給与体系へ変更しました。
これにより配送部員は従来の給与を維持していくためには一定のセールス売上が必要となる状況になったのです。
この結果Yさんの会社では
M社配送部員の人件費2億5千万円と倉庫賃料1億円の合計3億5千万円のインフラ獲得費用が支出となるのに対し、
M社からの受注2億5千万円と他社受注による収入2億円とセールスドライバー化による売上増加収入5千万円の合計5億円の収入を獲得することができたのです。
Yさんの企業では短期間で1億5千万円の利益を獲得できる体制を築き上げたのです。
このうち他社受注の混載による売上2億円とセールスドライバー化による売上5千万円はYさんの会社の活動によって新たに得られた収入です。
こうした他社の配送部門を人員と設備まるごと引き受ける事業モデルをいち早く構築したYさんの会社はその後、
サードパーティロジスティックス企業として株式上場を果たしました。
今回の案件が成功したのは
当初M社配送部員はお荷物的な存在(負け犬)であったのが
Yさんの会社へ移籍することで収益源(金のなる木)に生まれ変わったのです。
分業することで負け犬事業が金のなる木事業へ変身することが可能となるのです。
自社だけでは不可能な問題でも適切なパートナーを探すことができれば解決できるのだということ。
関係者の利害が対立する場合でもやり方によってWin-Winの関係になる答えがあるのだと
この案件から学んだことを思い出しました。
大事なのは解決するために一人でやり遂げようと悩むより、
解決できる力を持った人に相談できるかが大切なのですね。