失敗してもやり続けるのに必要なものって?

#10 失敗してもやり続けるのに必要なものって?

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ひょんなことからM社のM社長の話を聞きました。

Mさんの会社はM社長で3代目となる創業80年の金属の切削加工業です。

製作するのはベアリングケージ(リテーナー)というもの。

ベアリングとは様々な機械の内部で摩耗を防ぎ滑らかに動くようにする部品の一つです。

その構造は外側の輪っかと内側の輪っか、その間にボールとそのボールを固定するケージ(リテーナー)の4つの部品から構成されています。

M社が開発したのはこのボールを固定するケージです。

一見なんの変哲もなく見えますが、注意深く輪っかの中の穴を見ると

四角い穴の断面は凹面になっています。つまり円弧の内側に微妙な傾きを削りだしているのです。

この円弧状の内部に凹面があることで、ここに入るベアリングボールを組み込むと外れない状態ができるのです。

古いたとえで言えば、ラムネの瓶の蓋であるビー玉を瓶の中へ一度押し込むと簡単には外にでないようにラムネの瓶の口にも同様な凹面があり蓋の側からは押し込めても瓶の内側からは絶対に出ないのと似ています。

このベアリングという技術そのものは、かの有名な発明者レオナルド・ダ・ビンチが考案したものだそうです。

従来このケージの角穴を造るには分割構造として2つの金属円弧部品をボルト(リベット)で締結してこの「傾き」をつくっていました。

ただし分割することで剛性が低下すること、組立工程が発生しコスト高となることが課題となっていました。

Mさんは常々この「傾き」を得意の切削技術により1個の金属から削り出すことに挑戦していました。

ただし当時は計算上傾きを削り出すことが可能であっても、実際に削り出しを行うと微妙な「傾き」が出せず、何度も失敗を続けていました。

技術的課題として、この「傾き」を削り出すには社内の熟練工の切削技にも安定性が欠け、切削機械については機能が追い付いておらず、計算上はできたとしても実際に作りだすことができなかったのです。

その後もMさんは理想を追い求めこの「傾き」を削り出す計算と実際の切削加工を15年もの長きにわたり続けてきました。

お金も時間も費やしながら・・・

社内ではそうしたMさんの行動に否定的な意見が大勢を占めていました。

理由はすでにM社は現在の分割構造からなる2つの円弧状金属をボルトでつなぎ合わせるリベット形状のベアリングケージで国内トップシェアを稼いでいたからです。

なにもそれを全部否定するような製品の開発が本当に必要なのかという声が日増しに強まっていました。

その後計算上の設計図を精密に工作機械に出力することのできるCAD/CAM工作機械が中小企業の製作現場にもやってくる時代がきました。

時を経てNC工作機械製造のファナック製のメモリーが大幅に改良された結果、Mさんの意図した切削機械の動きが実現するようになったのです。

そうした技術革新がMさんの意図した「傾き」を削り出すことを可能とし、従来のボルトでつなぎ合わせる「リベット式」のベアリングに代わる新たなベアリングケージをいち早く市場に出すことができたのです。

Mさんのベアリングケージは従来の組み合わせ型リベット形状のベアリングに比べ剛性・耐久性が高いことが証明され、特に過酷な使用状況に耐えられる部品としての評価が定着しました。

現在では世界の高速鉄道の車両のほぼすべてに使用されるなど、圧倒的な信頼性を得ています。

有名なフランスの高速鉄道TGVやドイツ高速鉄道のICEも、このMさんのベアリングが採用されているのです。

失敗しても「許す」「待つ」ことが大事

Mさんがこうした製品を開発し製造できた背景にあったものは何だったのでしょうか?

Mさんがこれまでの経緯を振り返って語ったのは

失敗した時の行動が大事。そこでやめないで、やり続けること。

やって成功すれば達成感がある。やらないで過ごすと達成感を感じることができない。

こうした自分を乗り越える経験がある人物が社内に一人でも多くいる会社を作ることが私の責務と語りました。

私も仕事で失敗をします。

そうしたときに思うのは、今度は失敗しないようにしようと思い、時にはリスクのある新しい事から「逃げてしまう」ことがあります。

つまり「やらないで過ごす」ことを選択してしまうのです。

私の経験からそうした「逃げる癖」がつくと、いつの間にか、失敗を恐れる恐怖が気持ちの中心に居座り、仕事に行くのが嫌になったり、つまらなくなったりしてしまいます。

そうです、逃げていたらいつまでたっても、達成感は味わえないでしょう。

仕事も働くことも恐怖を前提にやるという、すごく消極的なものになってしまうでしょう。

そこには自分を乗り越える経験もなければ達成感もなく、成長もしないでしょう。

成長を感じることができないところには自分の居場所としての意味も感じることができないでしょう。

どうしたら失敗したときの行動を「やり続ける方向」に持って行けるのでしょうか?

Mさんは経営者との立場から自分の信念に基づいて、社内の冷ややかな目に対してもやり続ける行動を選択することができました。

一方でサラリーマンのような立場であった場合、同様の行動をとるには社内に失敗を「許す」風土が必要になるのだと思います。

そして成果が出るまで「待つことを受容する」雰囲気も必要なのだと思います。

そんなに現実は甘くないと指摘を受けそうですが、

事実そうした風土を持ったMさんの会社が

今後もどんどん新しいことに挑戦し結果を出すことが

「許す」「待つこと」の正しさを証明してくれるのでしょう。

そしてその場で働く人が達成感を熱く語ってくれれば、

日本のものづくりの現場がもっと活気づくのではないでしょうか。

だからMさん!

応援しています。

 

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