中小企業の自社株対策に効果的な借入金
#7中小企業の自社株対策に効果的な借入金
ひょんなことから通信機器の小売卸業のH会長に会いました。
H会長は先日、息子さんへ社長を譲り代表権を譲りました。
その際に本当は自社株式も息子さんへ同時に譲ろうと考えていましたが、自社株式の評価額が思いのほか高く、そのままでは息子さんが払う株式購入金額が大きく到底譲れないことが判明しました。
それでは具体的にHさんのケースを見てみましょう。
Hさんは会社創業者で現在通信機器の小売卸業を営んでいます。
従業員は90名
売上高は20億円近辺で推移し、黒字経営が定着している会社です。
総資産は14億円に対し純資産は7億円と自己資本比率50%を有する優良企業です。
この会社の発行する株式の約60%をH会長が所有しています。
単純計算でH会長の所有株式の評価額は4億2千万円となります。
単純計算式 純資産7億円 × H会長持ち分60% = 4億2千万円
この株式を売買するために4億2千万円を用意するは大変です。
相続で取得する場合でも、話を単純化すために相続税率を50%として、各種控除を無視すると
2億1千万もの相続税負担が相続人にかかるのです。
つまり相続の場合でも2億1千万円の資金が必要となるのです。
そこで、H会長は自社株式の評価額の引き下げ方法として以下の対策をしています。
【H会長への退職金支払い】
退職金の支払いは株価引き下げに最も効果的です。純資産の減少と利益の削減により株価がさがります。
この方法は一般的なのですが、
それ以外にやっている方法が「そんな事で株価が下がるのか?」という方法なのです。
借入金を増やし現預金を積み上げる?
その方法が
【借入金を増やし現預金を積み上げる】という方法です。
なぜ借入を増やすと株価が下がるかというと、
非上場株式の評価には会社規模判定という作業があります。
これは規模の大きな会社は上場企業の株価に近い評価にしましょう。
逆に規模の小さな会社は個人に近い評価にしましょう。
という観点から会社の規模を判定するのです。
大きな会社は上場企業の株価との比較において株価を評価し、小さな会社は個人の財産評価のように純資産の価額の合計で株価を評価するという考え方です。
一般的に自社株式の株価評価は大きな会社に近いほうが評価額が低く見積もられ、事業承継や相続には有利となります。
ここで規模の尺度となるものが、従業員数、売上高、総資産の3つです。
つまり、従業員数、売上高、総資産の3つのうちのいずれかを大きくすれば、株価が引き下がるのです。
ただし従業員や売上高を増やすということは経営そのものであり、一朝一夕にできるものでは無く、事業承継や相続対策とは違った次元での問題となります。
一方で、費用を掛けずに比較的コントロールしやすいのが、総資産です。
銀行借入をして総資産を意図的に増加させることが可能となるのです。
Hさんの企業のように財務体質が優良な会社に対し、
銀行は当座貸越枠という方法で一定金額の範囲内での融資については借入と返済の日を顧客側の自由に任せる方式の融資枠を許与しています。
当座貸越枠が3億円ある場合、総資産を増やしたいと思えば3億円の借入をすればそれで終了です。
借入した銀行の預金口座に預金を積み上げることで、銀行にとっては融資も預金も増えるので、大変喜ばれます。
これは本当です。
その証拠にH会長の場合、こうした融資と預金の取引実績を銀行に評価してもらった結果、当座貸越の金利についても引き下げをしてもらう事ができたそうです。
当座貸越枠の活用によってHさんはいとも簡単に会社規模のコントロールが可能になるのです。
その為のコストはH会長の場合、金利引き下げ効果もあり3億円を1年間借りても利息は150万円
金利0.5%で借りられるです!これで譲渡税や相続税が数千万円~億単位の削減ができるケースがあるというのですから驚きです。
業種を変更してみる
それ以外の方法として、業種を変更することで株価が下がる方法も現在検討しています。
自社の業種を株価の低い上場企業の業種に変更するのです。そうすることで、株価の低い上場企業との株価を基に算出した株価が自社の株価となり結果的に自社株式の評価額が下がるのです。
でも実際そんなことが簡単にできるのでしょうか?
実は多少の手間を惜しまなけらば、今まで通りの活動を維持したまま、現在の業種を変えることが可能なのです。
Hさんの会社の場合、現在はエンドユーザーに直接販売を行う小売りですが、間に販売子会社を新たに設立し、そこを通じて既存客に販売することで卸会社となるのです。
こんなやり方でも自社株評価が下がり、結果的に事業承継や相続の際の納税負担が軽減するのです。
ゲームに勝つには、何よりゲームのルールを知る事が大事です。
TAXゲームに勝つには他者の作戦も参考にしてみて、自身の作戦を練るのも良いでしょう。